仕事中の妄想

私は外回りの仕事をしているのだが、営業所が現在人員不足の為、最近は自分の担当以外のエリアにも、車を走らせる事が多い。
普段、私の担当は徳島市街地で短い距離を細々と走り回っているのだが、たまに郡部を走る事になると、ちょっとしたドライブ気分で楽しい。
少し前は、美郷という所へ行った。山や谷が美しく、僻地に来た、という趣き。山道に突如、地元の有力者を讃えたと想われる豪華なモニュメントが現れるという、排他的な雰囲気も感じたが、市街から車で1時間程度なら、是非一度、小旅行に出掛けてみたいと思った。

つい最近では、徳島、高知の県境の海陽町にまで、たった二件のお客さんの為、片道二時間の道を走った。
美しい海辺の道を走らせ、目的地に近くなると「鯖大師本坊」の看板が見える。
鯖大師本坊八坂寺は「お大師様」こと空海さんの伝説に由来する、地元観光名所にもなっている由緒ある寺である。

お大師様が修業でこの地を訪れた際、近くを塩鯖売りの馬子が通りがかった。
お大師様が、塩鯖を1尾、施しをお願いした所、馬子は男の薄汚れた風貌を怪訝に思い、冷ややかに断った。
お大師様は情けなく思い、経文のような物を唱えだした所、塩鯖を背負った馬が腹痛を起こし倒れてしまう。
彼がお大師様である事を知った馬子は、非礼を詫び、塩鯖を献上した。
大師様は再び唱えだすと、水が湧き出し、その水を馬に与えると、馬の腹痛は治ったという。

私は、そのまま、増田こうすけの漫画にできそうな、このエピソードが好きだ。

途中、一時雨が強くなった。こういう時私は、このまま豪雨になり、道が通れなくなったりして、やむなく近くの質素な宿で一泊しなければならない、なんてシチュエーションを密かに期待したりする。