バンドTシャツ考 上

ごくたまに、ではあるけどthirsty chordsのTシャツは無いのですか?作らないのですか?という問い合わせを頂く事がある。
我々のバンドには基本的には音源以外の物販は無い。なぜ作らないのか、と言うと、単に面倒臭いのである。Ian Mackayeのように徹底した反商業主義を意識している訳では全くない。
実はTシャツに関しては一度だけ存在した。ほんの数枚だが、デザイン業をしている友人から、自分が着たいからデザインを考えたのでついでに作らないか、と図案を出してくれたので、一度作ったのである。しかしその時気付いたのだが、プラスチックケースや厚紙で覆われたCDやレコードと違い、Tシャツは、ふにゃふにゃした繊維質でできており、管理がしづらい。私はTシャツを、上手くたたむ事ができないのだ。
思えば、私がエレキギターを手に取る事を諦めたのも、アンプとギターを繋ぐ為のシールド、と呼ばれる電気配線を、毎回片付けるのは困難である、と判断した事が、大きな理由の一つだった。
話をTシャツに戻すが、そんな私は、家、外、ライブ演奏中など、あらゆる場合において、お気に入りのバンドTシャツを着ている事が多い。
私はいつからか億劫になって、服を服屋で買う、という事を殆どしなくなった。だからたまに、どうしても劣化などで新たに服を買わなければならなくなった場合、現在の流行など、とんとわからない為、「おっ、これ!」と、自分では気に入ったものを買っているつもりが、それが例えば、既に持っている物とパターンが微妙にしか違わないチェックシャツだったり、バーチャファイター2のキャラクターが全員集合しているプリントシャツだったり、途轍もなくダサい服を選んでしまっているようなのである。
対してバンドTシャツは、服屋に行かなくとも、よく足を運ぶライブ会場で買う事ができる。それに、特に自分の聴いているようなバンドの場合、流行の左右があまり無いので、いつまでも着られるから良い。また、彼らは音楽以外の感性も優れているのだろう、大概にして、そのデザインもカッコ良いのである。
実はここにも自分達がTシャツを作らない大きな理由があって、つまり、自分のファッションセンスに自信が無いのに、カッコ良いバンドTシャツなど作る事ができるはずが無い、と思うのである。
しかし先日、あるバンドの友人から聞いた話により、私の、バンドTシャツは作りたくない、という気持ちは動いた。
物販の売り上げは、バカにできない、と言うのだ。
この売り上げは、我々のようなインディー、アマチュアバンドの活動においては、非常に重宝するのである。
特に県外でのライブの際、殆どの場合はその主催の方から交通費を頂くのだが、なかなかそれだけで全額が賄える事はそう無い(逆に自分が主催をした場合には、お金の事情はよくわかるので、これは本当に気持ちだけも十分有難い)。物販が売れれば、その際に出たアシを補なう事ができる。中でもバンドTシャツは、一度デザインのデータを作ってしまえば、あとの無地Tシャツの原価、再プリントの費用など、たかがしれた額で、一枚1500円ぐらいなら結構売れるし、利益もかなり確保できる、と言う事を知ったのである。
金。
それは最低限、どうしても必要である。派遣社員である私の少ない収入では、この需要の殆ど無いバンドを運営していくには、ドラムスティック一本購入するにも、身を切られる思いなのである。そもそもスティックは、一本ずつでは売ってくれ無いのだ。
ならばバンドの運営に少しでも潤いを、と早くTシャツ作りに取り組みたいのだが、残念な事に、このバンドには芸術肌を持ち得た人物は誰一人いない。折角Tシャツを作っても、そのデザインがダサければ、バンドの音が幾ら好みであろうとも、いざ身に付けるには抵抗が生じるものである。それは、あの人は人間として尊敬はしてるけど、SEXはNG、と言う女性の心情に似ている。
ではデザインの良さ以外に、魅力あるTシャツを作る事はできないのだろうか。
実は私には秘策があるのである。
そのヒントは、高校時代のクラスメイトのK君が、ある日、学校に着てきたジミ・ヘンドリックスのTシャツにあった。