YUKIGUNI 15' 上

今年に入ってから仕事を探しているが、上手くいかず、このままでは路頭に迷う事になりそうである。いや、もう既に迷い始めている。随分と迷った挙句、気付けば新潟県十日町市松之山町の、深い雪の中にいる。
冬でも温暖な四国に暮らす自分が、何故、よりによって、二月の豪雪地帯で発見されたか。おそらく、このままでは腐りつつある自分の心と身体を、冷凍して保存させねばならないと本能が働き、無意識、この地に足が向かったのだろう。そういえば、少し前から右下奥の親知らずが再び成長を始め、余りに奥に生えるものだから食事中に頬の内側を噛んでしまい、その傷が炎症を起こしていた。変な臭いもする。人間は多分、ここから腐る。
薄っすらとある記憶を辿ってみようと思う。

夜行バスで東京新宿駅へ。ここから再びバス、鉄道を乗り継ぎ、先ず越後湯沢を目指す。
徳島からの場合、通常は東京を経由すると遠回りなのだが、越後湯沢は川端康成の「雪国」の舞台の町、折角なら、有名な書き出し「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」のルートで、新潟入りを考えたのである。
ところがこれは叶わなかった。越後湯沢手前の上牧、水上付近で人身事故が発生した為、途中の沼田駅で降ろされたのだ。
結局、沼田からはJRの手配した臨時バスで、群馬水上から越後湯沢入りする事になり、本来小説のトンネルに当たる、鉄道での清水トンネルは抜ける事が出来ず、その横の高速道路に開通している、同じ山だからこちらもやっぱり長い関越トンネルを抜けると、雪国であった。
というかこの辺り、さっきからずっと雪国であった。

夕方、越後湯沢着。大きな駅で、スキー客が多い。天気は良いが雪は流石に相当残っている。駅のロータリーの真ん中に、掻いた雪を集めており、4メートルくらいの塚になっている。徳島で買ったスノーシューズの実力を試験する様にしながら駅の周辺を少し歩き、また直ぐ出発。

今日の最終目的地に向う。北越急行ほくほく線に乗り、まつだい駅。この駅で宿の人が迎えに来てくれ、車で松之山温泉へ。途中、道路の脇は延々と高さ2、3mの雪の壁が囲んで、青白い山中の町を進む。見た事も無い景色で、自分達にすれば、この雪自体が大変興味深い観光だが、地元の方達にしてみればどうか、よくもこんな中で暮らしているものだと思う。開いた口が塞がらない。ただこれは、炎症している右頬の内側の腫れが大きくなり、顎を閉じると患部を噛んでしまう恐れがあるので、迂闊に口を塞ぐ事が出来ないからである。