山川〜美郷

徳島県中部にある美郷地区へ行った。美郷は蛍の生息地として全国的にも有名な場所である。
2年程前、仕事中に立ち寄った事があり、山深い美しい所で感動し、一度じっくり観てみたいと考えていたのだ。
朝10時半出発。市内中心より車で西へ1時間程。
この機会に途中、美郷の少し手前に位置する山川町の忌部神社を参拝し、この土地の豪族が埋葬されているという古墳を見ようと社殿裏にある忌部山に登る。
それにしても「豪族」とは言葉からして頼もしい。顔は髭で覆われ、狩に出れば先頭に立って自ら獣を一突きにし、昨日までの敵も、相手が敗北を認めれば笑って許し大酒を喰らう。そんな印象。たまにTV番組などで、祖先が有名な武将であるとか、この土地の藩主家老であるとかいう人が紹介されるが、それは結構な家柄ですネ、と何だか鼻持ちにならないのだ。それが「豪族」となれば違ってくる。従いたいような、ついて行きたいような気持ちになる。
標高230m程の忌部山を登る事、約20分、山の少し開けた場所に5基、塚のような小さく盛り上がった古墳群が現れた。
まあ、古墳である。1基は破壊されている。正直な所それ程興味を持ってる訳では無く、ただ旅の目的地の一つとして挙げたに過ぎないので、特にロマンチックな気持ちになる事も無かった。

昼過ぎ美郷着。
四方を山に囲まれ、谷の間や山ベリに小さな集落が点在している。朝日新聞社が主催する「にほんの里100選」に選ばれた「高開の石積み」を見るのがこの旅の最大の目的。
「高開の石積み」はこの集落に残る美しく石積みして作られた段々畑である。石垣の上を歩けるようコースが設けられており、登ってみる。切り立った、かなり高い場所に作られていて、少し恐ろしいが壮観な景色。
石垣に植えられたシバザクラの咲く4月、夜にライトアップされる12月には観光客でこの山道が大渋滞になるようだが、シーズンでも無い平日の今日は、この4戸のみで構成された小さな集落には、自分以外誰も居ない。唯一、この4戸の内に住む一人と思われる初老の農家の男性がこの段々畑で作業をしている。
すっかり感動してこの地を後にする。車で帰る時、先の男性が農作業の手を止め、ジッと黙ったまま、私を見送ってくれていた。