肩書き

籍だけは残っていた会社の有給休暇を全て使い終え、これで本当の無職となった。
先日、私には随分前に暗証番号を複数回間違えた為、キャッシュカードが使え無くなったままの銀行口座があり、整理するには書類が必要だったのだが、その際の職業欄には、その時点ではまだ会社に籍あったので「会社員」と記入したが、これからはそうもいかない。
お店のポイントカードを作ったり、病院で初診を受ける時なんかでも書類には職業記入欄があったりする。勿論、同時に年齢も記入せねばならない。
「32歳・無職」。何というデカダンスな響き。できるだけオブラートに包み「32歳•ロハス」などと書いてぼやかせたいのだが、そもそも意味が全く違うし、間違いなく書き直しを迫られるだろう。

図書館へ行く。
受付の女性に図書カードと借りたい本を数冊を渡し、女性がまずカード表のバーコードに読み取り機械を当てた所、いつもと違う表示が出たのか、パソコンの画面を訝しげに見つめている。
図書館のカードには住所、電話番号等の個人情報が入っている。この図書館は公営の施設なので、もしや住基ネットやらで、すでに自分が無職となった情報が回っているのか?
短い沈黙の後、受付の女性は、感情など母親のお腹に置いてきたかのような声で「大久保さん、ご存知無ければお教えしますが図書館という施設は皆さんの税金によって運営されているんです。あなたは無職なので税金を払って無いですよね?それなのに5冊もお借りになる?ああ、消費税と酒税はお支払いされていると。成る程。でしたら2泊3日程度でご返却可能ですか?期限の3週間も必要ないでしょう、第一死ぬ程時間あるでしょうし。」
グウ。私はツバを飲み、ようやく出せた一言。グウの音も出ぬだろう、という表情のこの女性に対し、私ができる唯一の反論であった・・・。
このような展開がこの後起こるのではと想像し、やや緊張気味に彼女の対応を待ったのだが、どうやら前回本を借りた際、私はうっかり返却期限を過ぎてしまっており、係がカードのデータにある番号へ電話をした所、登録が古く実家の番号のみだったので、この利用者は現在の電話番号や住所を新しく更新させるように、といった内容の事が表示されていたようだ。
大人しく書類を書き直す。職業欄は無く安堵する。