早咲きの梅が咲く頃

すっかり暖かくなったと思ったら、この二、三日はまた寒い。おまけに冷たい雨。
今の仕事は殆どが外での作業で、甘く見て簡易な合羽しか羽織って無かった自分の下半身はずぶ濡れ、あまりの寒さにトイプードルのようにぷるぷると震えていると、同乗の先輩が憐れに思ったのか、普段より早めに帰る事ができた。
早く身体を温めようと、帰宅すると直ぐ風呂に入り、晩飯を肴にレンジで燗したカップ酒を飲んだ。ぬくもった。
いつもより夜と酔いが浅いので、もう一杯欲しくなったが、カップ酒は帰りのスーパーで買った一本のみで、冷蔵庫にはハイボール缶が冷えてはいるが、こんなものを飲むと、たちまちまた身体は冷えてしまいそうで、こんな時は義母が漬けた梅酒が残っているのを思い出し、湯割にして飲んだ。
瞬間、喉がボっと熱くなる。湯の温もりと、梅酒の酸味、アルコールによるものだろう。義母の梅酒は度数が高いのだ。それでも甘みがあって口当たりがスッキリしているのでいくらでも飲めてしまう。
そろそろ良い感じかな、と思ってもまだいける。もうだいぶ飲んだな、と思ってもまだいける。今度は濃い目でいこうと、梅酒の割合を濃くして飲む。喉がカッとなる。きたきた、と瞬間思ったが、やっぱりまだいける。
と言うか、飲めば飲むほどすっきり爽やかになる一方で、なぜか酩酊から遠ざかってゆくばかりなのである。
あまりに妙なので妻を呼びつけ「どうゆう事?」と問いただし、飲ませてみた。
妻は殆ど酒を受け付けぬ性質で、その為アルコールの臭いには麻薬捜査犬並みに敏感なのだが、その彼女によれば、ほぼアルコールは検出され無い、と言う。
そんなおかしい事があるはず無く、自分は先週にも「一人梅祭り」と称し、この梅酒を飲みながら、遠く窓の外に見える点のような、まだつぼみの梅に目を凝らし、確かに酔っ払っていたのである。
その時の梅酒と今の梅酒との違いは何か。この梅酒は三年前に、8Lの容器に青梅を入れて漬けられている。それを使い易いよう、900ml瓶に移し変えて、無くなれば足し、無くなれば足し、少しずつ飲んできた。先週飲んだ時に、その900ml瓶は空っぽになっており、今日飲んだ梅酒は、青梅の沈んでいる大元の8L容器から新たに足したもので、違うのはこの部分である。つまり先週飲んだ梅酒と今回飲んだ梅酒は、同じ梅酒でも漬けられていた期間はやや違っている、と言う事である。何らかの原因で、この少しの期間の差に大元の8L側の梅酒のアルコールがすっかり飛んで、ただの濃い梅シロップに変わってしまっていたのだ。
では、先程強く喉を刺激したアルコールの感じは何だったのか。多分、大元容器の梅酒が残り僅かで、青梅そのもの濃度が上がった為に酸っぱさが増しただけなのだと思う。いや、いつもより酸っぱい、とは思った。
それにしても何故アルコールは無くなってしまったのだろう。Sukoshi、Fushigi。