ヒューマンドキュメンタリーシリーズ 「音楽の力を信じて」

thirsty chordsはバンドである以外にも、アルコール、ニコチン、インターネット等の依存症、無職、及び虚言癖等の悩みを持つ青年達に音楽活動を通して立ち直りを促すという、ボランティア、支援団体のような側面も持っているのだが、こともあろうかその音楽に「パンクロック」というジャンルを選んでしまった為、対象者達の素行は益々酷くなってゆく一方である。
中でも特に、32歳男性、大野中助(仮名)の状態は深刻であり、このままでは廃人同然となってしまう恐れがある。修正の為にオサレなギターポップや、カフェーにカホンとかを持ち込んだりする音楽を聴かせようとしても、言葉通り、聴く耳を持たない。代わりにその手のジョッキを離さんのである。

もはや誰もが彼の支援に匙を投げかけていた所に、ライブハウスCROWBARのブッキングを担当しているエガミ氏から、タテタカコさんとの共演の話を頂いた。
これは地獄に垂らされた、一本の蜘蛛の糸である。もはや彼女の歌にかけるしかしないと感じた支援者側は、普段ならば鍵盤と歌のみで構成された音楽なんてまず聴こうとしない彼を「タテタカコさんはハードコアの人達とも共演してるんだヨ」と説得をし、このライブに参加する事が決まった。

ライブ当日、thirsty chordsの演奏は相変わらず酒気を帯び、粗暴で愛想の無い内容。自らの終演後はさらにピッチを上げ酩酊し主催者であるエガミ氏の演奏中に野次を飛ばすという始末。
やはり駄目なのかもしれない。もう今の彼は音楽を聴ける状態には無いのかもしれない。
誰もが諦めかけた中、ライブのトリ、タテタカコさんの演奏がゆっくりと、静かに始まった。

結果、彼はその歌声、楽曲に涙を流し、アルコールでは無く、その旋律と詞に酔ったのである。
さらには物販にて、彼女達が作った、震災、原発事故被災者の方々の為のチャリティCDを購入していた。



初めて観たタテタカコさんのステージは本当に素晴らしく、楽曲もさることながら、彼女が作ってくれる絶妙の距離感がとても心地良く感じられました。学校の音楽室を思い出すような、例えもっと大きな場所での演奏であっても、そのぐらいの距離で歌が届いてくる感覚になるのではないでしょうか。