東京での事 2

残念ながら「ねじめ民芸店」はつい先に閉店だったが隣りのシュークリーム屋さんに店の前で写メールを撮って頂き、ホクホクと阿佐ヶ谷駅へと踵を返す。しかしそういえばまだ晩飯を食っていない事に気付き、もう一度商店街へ戻ろうとその時。どこかで御見掛けしたそのハンチング帽、サングラス。そう、シュールアートの画家であり「酒場の掟」の著者であり、何よりBS-iにて今も放映中「酒場放浪記」の吉田類さんが目の前を通り過ぎたではないか。
俺は取り乱しながらも「吉田類さんですよね!?」と声を掛けると「あ、そうです」と吉田さん。ますます興奮し勝手にも、自分が仕事で東京に来て飛行機に乗り遅れて帰れなくなった事、阿佐ヶ谷に来た理由等を話した。吉田さんは明日のロケの為の下見にこの町を自転車で訪れたらしい。彼は自転車がメインだそうです。それから超失礼にも著者同伴で本屋に向かい「酒場の掟」を購入し本人の写真の欄にサインを頂く。それだけでも最高に嬉しかったのだが、吉田さんの方からまさかの「良かったらこれからご一緒しませんか?」のお言葉!
二人で「酒場放浪記」でも一度訪れている阿佐ヶ谷住宅地にある小さな居酒屋「可わら」へ。本物の通の店。はっきり言って俺のような下手の横好き的酒飲みがお供する資格などあるのだろうか。それにしてもテレビと全く変わらない。この柔らかな物腰、語り口。「米の力」という珍しいお酒(美味)をちびちびと、俺は酒だけではなく吉田類さんに酔っていた。
一時間半程過ごしてお別れ。吉田さんは自転車で次の酒場へと消えて行った。夢に心地で寝床を探す。結局金も無いので蒲田という町のマンガ喫茶に落ち着く。ほとんど眠らずに朝を迎えたのだった。

しかし偶然という物は。もし仕事のミーティングが今日でなければ、最初羽田でなく成田へ向かってしまわねば、電車が病人の救護の為に止まらなければ俺は飛行機に間に合っていた訳で。
さらにふと阿佐ヶ谷に行かねば、腹が減ったと再び商店街に引き返さ無ければ、この素晴らしい出会いはなかっただろう。場所、時代、瞬間など考えてみれば全ての出会いはもの凄いわずかな確率の「偶然」なわけだ。時にそれは悲劇でもあるが。でもこの偶然、しばらくは余韻を楽しめそうだ。終わり