トラブリュウ

妻のウォーキングに夜、付き合う。
仕事上がりで面倒臭いのも半分だが、田んぼに囲まれた道がコースで、気温も涼しく、なかなか気持ち良い。田植えが始まり蛙が鳴き出すと尚良いな、とか考えながら広い道に出ると、50~60歳ぐらいの女性が道の端で自転車から転んだのか倒れていた。
びっくりして駆け寄ると漂ってくる、何とも馴染み深い、芳醇で甘美な香り、ってか酒臭い。
よく周りを見渡せばワンカップの瓶が割れて転がっている。泥酔である。
足の曲がりも転んだからなのかなんか妙だ。
「大丈夫ですか?歩けますか?」とか「家まで送りましょうか?」とか尋ねても「はい大丈夫です、ありがとうございまーす」とだけを繰り返し答える。
この道は信号も無く、真っすぐな道で車はかなりとばして走る。街灯も周りに少なくかなり危ないため、とりあえず道沿いの、すでに閉店している持ち帰り専門のやきとり屋さんの敷地に移動させようと抱き抱えると、さっきまで「アリガトゴザイマース」のみカタコトの外国人のように繰り返していたのに突如冷静になり「ちょ、ちょっとやめて下さい!」と言い出した。その言葉にさっきまでいたわりの態度を見せていた妻がとうとうキレてしまい、「もし、事故でもされたら私達も迷惑なんですよ!あんた、いいから引っ張って行き!!」と怒りの声を上げる。一応、車からは安全な場所に移動させ、ウォーキングを再開させたが、割れた瓶もドブ川も近くにあり、なんせベロンベロンである。万が一にも何かあれば目覚めも悪くなると思い、家に携帯を取りに帰り、お巡りさんに一切をお任せした。
三度ウォーキング。帰りに現場を通ってみると、まだ三人の警官は説得を続けている様子だった。
耳を傾けると、入ってくる言葉は「アリガトゴザイマース」の声であった。